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行っとくか!
「あんな人間どっかで転んでしまえば良いのに」
「またかね!!」
「全く…!!」
今日も一日、怒られて過ごして。
明日もきっと同じように過ごす。
「…おもんなっ。」
口癖が思わず飛び出す。
大体、人間叱られたって変わるわけない。
うるさいだけ。
耳元でギャーギャー騒ぎ立てて。
日頃のストレス発散してるだけ。
「サンドバッグじゃねーし。」
愚痴が止まらない。
このままではダメだと思い、路地裏へと足を進めた。
この路地裏は様々な飲み屋が集結している所謂、飲み屋街だ。
テキトーなところに入り、焼き鳥片手にビールで流し込んだ。
「…ろうが!!」
突然の怒鳴り声にそちらへ目を向ける。
40ぐらいだろうか??スーツを着こなす男が
若い女を怒鳴り散らかしている。
女の方は同い年ぐらいに見える。
―ここでも八つ当たり野郎か…
「…おもんなっ。」
気分転換に来たのに最悪の気分になった。
気分を害した俺は会計を済まして、
別の飲み屋へと向かった。
飲み通した俺は路地裏を抜け、駅へと向かった。
終電前ということもあり、急いで家路に着く人で電車はごった返していた。
自分のせいではあるがこれまた最悪と言うべきか…
扉の前に陣取り、出発を待っていると、一人の女が走り込んできた。飲み屋で叱られていた女だ。
近くで見ると出で立ち、顔…どこかで見覚えがある。
思い出せないモヤモヤが溜まるも、
放っておくことにした。
スマホを開くと同窓会の通知を見て、
成人式の存在を思い出した。
「同窓会か…」
おもわず呟く。
中学の頃なんて最悪の記憶だ。
勉強は、もちろんの如く出来ず、
かと言ってスポーツができるかと言えばそこそこであった。
ほんとの友達もいたとも言い難い。
とにかく、取り柄の欠片もなく、人同士の関わりも適当であった。
その頃から適当な人間だったのかもしれない。
―ほんっとに最悪だな。
不参加の連絡をしようとした時、
ある記憶が舞い込んできた。
俺はそんな中学の時、1度不登校になりかけた時期があった。
なにせ、面白くないのだ。
ところがそんな俺を変えたのは忘れもしない、10月の席替え。
俺の隣になった佐々木は「よろしくね!」
と、俺に微笑みかけてくれた。
まったく。女の笑顔は恐ろしい。
その笑顔ひとつで俺は惚れてしまったのだから。
恋があるというものは素晴らしいことで、
その他がつまらなくても、それのために動けるのである。
要は、不登校にならずに済んだのである。
だが、まだ中学生と未熟だった俺はしてはいけないことに駒をすすめてしまった。
関わり方など分からなかった俺はちょっかいがエスカレートし、いじめじみたことをしてしまったのである。
ほんとにバカである。
佐々木は振り返ってくれることは無かったし、
臆病な俺は気持ちを伝えることも出来なかった。
高校生ぐらいになりようやく自分がしてきたことの愚かさを知ったが時すでに遅しだった。
今となっては佐々木の顔もよく思い出せない。
嫌なことを思い出してしまい、またも気分が悪くなる。
不参加のメールを送信する直前、ふと思う。
―だが、もしかしたら、佐々木はこの同窓会来るのかも知れない。―
俺は謝る最後のチャンスかもしれないと、
参加のメールを送信した。
時は流れ、年は変わった。
年末年始休みを満喫し、実家から帰ってきた俺はポストの手紙を見て思わずため息が出た。
まぁ、10月から回収してない俺が悪い。
年明けということもあり、気分を一新するため、ポストの中身を全て取り出し、部屋へと戻った。
コタツに入り、手紙を見ていると思いあたりのないところからのものがあるのに気づいた。
…どう、そうかい…同窓会?!?!
すっかり忘れていた。
その封筒は同窓会の案内だったのだ。
今日は1月4日。
同窓会は1月8日だ。
特にスーツも用意していない。
俺は仕方なく、いつものスーツ着ることにし、
部屋の掃除を開始した。
「えー。あなた方がこのように成人できたことを喜ばしく思い…」
市長代理の朗読を聞き流しながら、俺は後悔の嵐に苛まれていた。
仮に佐々木に会ったとしても唐突に謝ることはおかしいと気づいたからだ。
あの時の俺は謝りたいということを建前にあわよくば初恋の相手に会おうとしていただけであった。
自分の醜さと愚かさに恥ずかしくなって、
どうしようもなくなった俺は思わず呟く
「…おもんな。」
笑笑
…っ!
近くで誰かが吹き出した。
俺は軽く当たりを見渡す。
そいつは隣に座っていた。
その顔…どこかで見覚えが。
俺は必死に記憶の糸を辿り、その顔にたどり着いた。
あの時の飲み屋の女だ。
スーツではなく振袖で髪型も違うが確かにそうだ。
この女はなんで唐突に笑いだしたのだろうか。
いや、そんなことより、この女が電車に駆け込んできた時の既視感の謎は解決していない。
成人式が同じということは学校が同じだったのだろうか…
地区が同じということは確かであるが考えても分からない。
成人式が終わり、同窓会の会場へと向かう途中、背後から声をかけられた。
中学の時に俺がいちばん嫌いだった山本だ。
勉強も得意でサッカー部。とことん見ていて面白くない男だ。
こうやって、どうしようもない俺に話しかけてくる辺りも気に食わない。
山本はベラベラと話しかけてくる。
俺の我慢が限界に到達しかけたその時、
会場に到着した。
会が始まると自己紹介の時間になった。
自分の名前や自分の今していることなど、
まぁ、つまらないものだ。
なぜ来てしまったのか。過去の自分を助走付きで殴り飛ばしたいぐらいである。
俺はトイレを口実に席を立った。
会も盛り上がってきたところ、俺は数人のやつと過去の話をしながら横目で佐々木を探した。
さっきの自己紹介を聞いておけばよかったと
後悔に浸っていると、
グループのひとりが、「そーいえばお前って佐々木のこと好きだったんじゃないか??」
そう冷やかしを入れてきた。
全くこいつは触れてほしくないことに突っ込んでくる。
「お前佐々木に意地悪しまくってたもんなー。
筆箱隠したりさ、小学生かと思ったぜ笑笑」
ひとりが話し始めると話に熱が入り、どんどんヒートアップしていく。
こいつらは変わってないなと、ひしひしと感じながら、苦笑いという名の警告を出した。
だが、そんな警告もお構い無しに奴らは続ける。
「そうそう!!シューズを教室に隠した時はマジでやばかったよなぁ。佐々木ずっと玄関で下駄箱ひとつひとつ探してたもん。あれはやりすぎだよなぁー。」
「それな!そーだお前!佐々木来てるし謝っとけよ!」
―…?!佐々木が来ている。
俺はその言葉を聞き逃さなかった。
「俺が佐々木呼んでやるよ。ささきー!」
グループから山本が離れていく。
俺はそいつの行く先を見つめた。
3人ほどの女のグループがあった。
そのうちの一人は成人式で笑っていた電車女だ。あとは知らない。
女の顔は変わるな。と思いつつ、眺めていると、あろうことか電車女を連れてきやがった!!
「ほら、お前のアイドルの佐々木だぞ。」
耳元で友人が囁く。
電車女が佐々木????
俺は混乱した。が、電車女の既視感の謎が解けた。
頭の中を整理し終えた俺は佐々木との無言の対面の状況の悪さに気づいた。
謝りに来たじゃないか。ここで躊躇っていると今度こそもう、謝れないかもしれない。
グズグズしている暇は無い。覚悟を決めた俺は
深く息を吸い、
「中学の時は…ごめん。」
ださい精一杯のセリフを絞り出した。
気づけば辺りは2人だけになっていた。
あいつらの事だ。遠くに逃げて2人の空間に仕立てあげ遠くから茶化しているのだろう。
目の前の佐々木は、またも笑っている。
上司に叱られていた時と比べ物にならないほど柔らかい表情だ。
表情筋がバグっているのではないだろうか。
そして、顔を上げ、
「あんな昔のこと… んー。しっかり謝ってくれたからなー。
いいよ!許したげる!!」
そう言って満面の笑みで見つめてきた。
あのころの笑顔だ。
中学の時、俺を一撃で仕留めた。あの笑顔。
まったく。ずるいな…
正面から笑顔を見て記憶が鮮明になりあのころの気持ちが戻ってきた。
「あの…連絡先交換いいですか??」
気づけば俺は言葉が出ていた。
なぜこんなこと言えたのかは俺にも分からない。
このタイミングを逃しては行けないと本能的に悟ったのだろうか。
どっちにせよ、この言葉のおかげで
今の俺の目には眩しいぐらいの世界が広がっている。
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