A001XM / 1080*2111
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僕は言葉につまる。
目の前の口から出た言葉に理解が追いつかない。
いや、追いつかないのではない。
言葉の意味は分かっている。
痛いぐらいに。
脳で理解はしていても心で受け入れたくないのだ。
けれども、首は縦に動いていた。
「はぁ……」
思わずため息がこぼれ
暗闇の中の街頭をスポットライトに見立て
悲劇の主人公の感情に浸る。
傍から見たら相当痛いことは100も承知。
だけど、今日ぐらい、いや、今回も優しく見守ってて欲しい。
今日の話は他でもない。
付き合っていた彼女からの別れ話だった。
ごめんなさい。今までありがとう。幸せになってね。
これで何回目だ……?
思い出したくもない。
それでも、数々の記憶がフラッシュバックしてくる。
いや、そもそも、幸せ願うなら離れないでくれよ。
幸せにしてくれ……
そんな思いが込み上げ、悲しみが苛立ち、怒りへと変わっていく。
イライラが募る中、ひとつの言葉を思い出す。
優しいだけだったよね。
……そんなこと分かってる……
優しいとはなんだろうか。
ただ一緒にいれればいいのに。
一緒にいられれば幸せなのに。
そんな思いが込み上げ、
イライラも忘れ、苦しく、悲しくなっていく。
辛くなると空を見上げる。
広い広い空を見ていると悩みも小さく思える。
だが、今日は違った。
ますます気持ちは落ち込んで行く、空は真っ暗。
雲が広がり星一つ見えない曇天だった。
重い足を動かし、ようやく家にたどり着いた時には、
もう何も気力は残っていない。
そのままの姿でベッドに飛び込む。
人間の記憶に1番残るのは視覚でも聴覚でもない。
嗅覚だ。匂いをかげば不意に記憶が蘇ることがあることがその証拠だ。
そう。自分のベッドの匂いで、彼女が。
いや、もう赤の他人であるが、恋しくなる。
そこの見えない悲しみに沈む途中、
意識も遠のいて行った……
ピピピ……ピピ……ピピ……ピピ
うるさい電子音を耳元で感じ、イライラと共に目を覚ます。
おは……
声をかけようとしたその先に彼女はいなかった。
昨日の記憶が全て戻ってくる。
まるでパズルのように少しずつ記憶の断片が繋がり、
多少の脚色を加えられながら、完成していく。
……暗い気分になり、沈んでいく。
カーテンの隙間から、光が覗いている。
記憶を頼りに昨日は曇りだったことを思い出し、
嘘のようなから天気を見てやろうとカーテンを開ける。
……
目がチカチカするほどの快晴。
まるで自分のことを嘲笑うかのごとく。
周りはみんな敵だらけ。
誰も助けてはくれない。
あんなに味方してくれた空でさえ……
悲しみから卑屈な思考に陥る中、
ふと見た電子盤に息をのむ。
お昼手前……?
外の景色を思い出す……
ほぼ真上。朝方では、ありえない太陽の位置だった。
そう。寝坊したのだ。そして何を隠そう今日は月曜日。
電子音……
急いでスマホを開く。
画面を見た自分は血の気が引いていく……
不在着信の数。
終わった……
朝方に比べ人の少ない電車に揺られながら、
先日の出来事を思い返す。
それと同時に、これから起こることを案じ、
気分が沈んでいく。
「遅れてもいいから」
昨日のことがあり、出勤する気力は微塵もなかったが
会社からはそう告げられた。
行かずとも未来は見えている。
遅れてきた自分を会社は冷ややかな目で受け入れ、
上司には全体も面前で叱責されるに違いない。
いいことがひとつも無い。
気分が落ち込み続ける中、
無意識にメールアプリを開く。
そこでふと我に返る。
もう優しい言葉をかけてくれた彼女は
昨日で居なくなったのだ……
これからはひとりで乗り越えることが
多くなった事実も重くのしかかる……
朝から気分が沈み、
会社に行く気力もないこともお構い無しに、
電車は目的地の駅名を告げた。
足枷のついたかのような重たい足を進めていく。
そして、ついに目の前に
この憂鬱の元凶のひとつへとたどり着いた。
当然の如く、想像していたこと全ての不安は訪れた。
周りの冷たい視線、激しい叱責。
追加で長時間に及ぶ残業も。
心身ともに疲弊し尽くした体で自宅に向かう途中、
1組のカップルが目に留まる。
何故、視界に入って来たのかは分からない。
破局した手前、
他のカップルが妬ましかったのかもしれない。
視界に入った理由はなんにせよ、
2人を眺めているとカップル間の
ぎこちなさに違和感を覚えた。
付き合うってなんだろうか……
第三者の自分から見ても、ぎこちなく見えても、
くっつき続けるカップルもいる……
頑張って気を張り続けた自分が破局し、
相手に気を使うつもりのない
カップルが今、目の前でくっついている。
相手のことを考えて、合わせるだけじゃ、
優しい止まりになってしまうことは分かっている。
自分は付き合うことに対して
何を求めているのだろうか。
たしかに相手に尽くすことは喜びであり幸せだ。
何でもかんでも尽くしていくばかりでは
執事のようではないか?
相手はそれを望んでいるのだろうか?
考えれば考えるほど、
自分の中で出ない答えの堂々巡りで、
心のモヤは広がっていく。
長いトンネルをぬけた先の最寄り駅で、
カップルを横目に降車した。
先日同様、真っ暗になった夜道を
街頭に照らされながら家路に着く。
ただ、ひとつ違うのは、
自分はこの世界でモブかもしれないと
いうことに気づき始めたこと。
夜道の街頭さえ、
自分を照らしてくれていない気がした。
再びどん底に沈みゆく意識の中、
もうひとつ違うものを見つけた。
今日は星が綺麗だった。
広い広い空を見あげ、
どこまでも広がる吸い込まれるような暗闇に
心が軽くなるような気がした。
明日も仕事ということも忘れ
踵を返して、いつもの場所へと向かい始めた。
木でできたアーチを抜け、いつもの場所が見えてくる。
空がとても綺麗な時、心が押しつぶされそうな時に
こっそり来る、自分だけが知っている場所。
そこだけは木が開け、電線ひとつ見えない、
真っ直ぐに空が楽しめる場所。
特別な場所……
だったはず……
着いた先には先客がいた。
先程のカップルの女性が見える。
彼氏と思しき相手もいるのかはここからでは見えない。
自分だけではなかった事に落胆する中、
どうしてあの女性が知っているのか
苛立ちが込み上げてきた。
ただでさえ幸せなくせに自分の幸せを阻害することに
怒りを覚えたのだ。
冷静であればこんな理不尽な怒り方は
ありえないことは分かるが、
今はとても平静な心でおれるはずもなく、
沸々と怒りが込上げる……
怒りと同時に、電車で感じた違和感を思い出す。
ほんとに幸せなのか見てやろう。
とにかく、幸せを阻害された分、
相手の幸せも否定してやりたい気持ちになった。
電車で見た彼氏と思しき人間も視界に収め、
観察しようと位置を変える。
……?!
ひとり?!
そう、彼女は1人だったのだ。
そしてよく見ると、彼女は膝を抱え、頭を埋め、
丸くなっている。
どうして良いのか分からず、困り果ててしまう。
先程まで怒りを覚えていた相手ということも忘れ、
心配から声をかけようとしたところで
思いとどまる。
彼氏が近くにいるのかもしれない。
ゴタゴタには巻き込まれたくない。
何もすることが出来ず、再び家路へと着いた。
なんとか、朝起きて会社に行ったものの、
頭が回らず、また怒られっぱなしの1日だった。
もう何もかも上手くいかない。
今日こそは秘密……ではなくなったが、
あの場所でゆっくり心を整えるとしよう。
あの場所へと歩みを進め、
そっと覗く。
すると、またあの女性がいた。
昨日と同じポーズだった。
何が……起きている?
あの女性もここがお気に入りなのか?
そして、またもや彼氏と思しき人間がいないのが
気になる。
とにかく、首を突っ込む気力もなく、
家路に着いた。
明日こそはゆっくり出来るだろう。
そう思って。
だが、そうもいかなかった。
次の日も、その次の日も、そのまた次の日も彼女は、
同じ位置に、同じ体勢で自分より先にかつ、
いつもひとりでいるのだ。
流石にここまで続くとこちらも不思議に思う。
彼氏と思しき人間もどれだけ探しても
見当たらないことも謎だ。
明日も彼女がいたら流石に声をかけてみるか。
そう思い、家路に着いた次の日は雨だった。
雨でも彼女はいるのだろうか。
ふと思い、興味本位からあの場所へと向かう。
悪路を進んだ先に。いつもの場所に彼女はいた。
今日は、レインコートをはおりいつもの体勢でいる。
―明日もいたら声をかけよう―
昨日の自分が課したものが蘇る。
そう決断していたものの声をかけるものか迷う。
しかし、彼女に対する興味が止まらないのだ。
彼女に対して、なぜ。どうして。
といった知りたい欲しか
現状、感情として抱いていない。
反面、この知りたい欲だけだが、
自分を積極的にするには充分すぎるほどの
ミステリアスさを放っていた。
――興味本位でいいものか?
――相手に迷惑をかけないのか?
――自分に何ができるのか?
――でも、知りたい。
脳内で答えの出ない激しい論争をしていたはずが、
気づけば身体は彼女の前にあった。
人の気配を察したのだろうか。
何の準備も整ってない自分に彼女は潤んだ瞳を見せた。
脳内が混乱する。どうする……どうする。
そうした中、自分は次の瞬間咄嗟に
「風邪。引いちゃいますよ。」
そう言って彼女に傘を差し出していた。
彼女に傘を差し出したことで
雨に打たれ濡れていく自分を見て
潤んだ瞳、赤く腫れた瞼だった
彼女の目尻にシワがよっていた。
あまりに可愛いその笑顔を見て、
頬が赤らむことを自覚しながら、
自分の行動の矛盾に気づき、
なおのこと頬が赤らんだ。
その表情の綻びから生じた、
空気の緩みを皮切りに、
欲の赴くままに、彼女について質問をしてみた。
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